長野地方裁判所 昭和47年(ワ)37号 判決
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【判旨】
一事故の発生
訴外直が昭和四四年三月一三日、本件浴室内で死亡したことは当事者間に争いがない。<証拠>によれば、その死亡推定時刻が同日午前一時ころであること(この事実は原告らと被告県との間では争いがない。)、その死因は本件浴室内に発生した一酸化炭素による中毒死であることが認められ、右認定を左右する証拠はない。
二事故の原因
そこで先ず、本件浴室内に右一酸化炭素が発生した原因について検討する。
1 本件事故発生の経緯
<証拠>によると、訴外直は、昭和四四年三月一二日午後六時ころ帰宅し、午後六時三〇分ころから午後一二時ころまでの間、日本酒約二合半ないし三合を飲みながら原告静子、同玲子と共にテレビを見ていたが、原告和子が同九時ころ就寝し、原告静子と同玲子が同一二時近くに床に入つたのち、本件浴室に行き、原告玲子が同夜午後七時ころから八時ころまでの間に入浴したのみでその後ガスの火を消していたため風呂の湯が冷めていたので、水道の栓をひねつて水を追加したうえガスに点火して入浴していたこと。そして翌一三日午前三時三〇分ころ、訴外直が本件浴室内の洗場で仰向けになつた状態で倒れて死亡しているのを、原告和子によつて発見されたこと。その際、ガスは燃焼中であつて浴槽の湯は沸騰していたこと。本件浴室の換気窓及び入口戸は閉まつた状態であつたこと。以上の各事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。
次に、本件事故発見当時、本件浴室の入口戸の舞良が、ビニール風のもので塞がれていたか否かについて判断する。<証拠>によれば、右入口戸の舞良には別段ビニール風のものは張られていなかつた事実が認められる。<中略>。
2 本件浴室の構造
<証拠>によれば、本件浴室は、面積が約三、八平方メートル(東西二、二メートル、南北一、七四メートル)、洗場の床面から天井までの高さが二、三二メートルあり、周囲の壁は厚さ二二センチメートルのモルタル壁で天井もモルタル塗であること。入口戸は内開き式で高さ一五八センチメートル、幅八〇センチメートルあるが、上方四分の三の部分はガラス三枚を入れてあり、下方四分の一の部分は幅三センチメートルの板七枚が斜めにはめ込まれ、舞良と呼ばれる通風口になつていること。北側壁には縦六五、五センチメートル、横五二センチメートルの上下二分されている二枚のガラス戸があり、これは浴室内の操作により外側に斜めに開き換気窓となつていること。バーナーはプロパンガス燃料用であり、バーナー、ボイラーとも何ら異常は認められないこと。バーナーから排出される排気ガスは、まずボイラー上部の煙突を抜け、銅板製煙突から北側壁の床面より一、九六メートルの高さにある直径一一センチメートルの鉄製L型スリーブの穴に入り、更に壁内を屋上まで貫通しているスレート煙突を通つて屋外に排出される構造となつていること。以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
3 スレート煙突内の紙詰まりと一酸化炭素の発生の関係
<証拠>によると、長野県警察本部の係官は、本件事故当日の午後七時ころ、本件浴室及びこれと同一の構造である本件住宅内二号室、四号室の各浴室内で、本件事故原因究明のため現場検査を行い、その際、各浴室内の換気窓及び入口戸を閉めガス風呂バーナーのコックを全開にして一〇分間燃焼させた場合の室内の一酸化炭素濃度を測定したところ、本件浴室内では約二〇〇〇PPM、二号室の浴室では約一五〇〇PPM、四号室の浴室では殆ど〇に近い数値の各測定結果を得たこと。ところが、本件事故の一日後に実施された検証において、本件浴室内の銅製煙突を外したところ、モルタル壁に埋め込まれている鉄製L型スリーブ内部にはスレート煙突の先端の周囲に二重、三重に巻かれているセメント袋用の紙がはみ出ていたこと。この紙は、スレート煙突の内側に巻いて押しこまれたようになつていて、スレート煙突とL型スリーブの接合部を殆ど封鎖する状態になつており、その中央部にやや半円形状の直径約二ないし三センチメートルの穴が開いているにすぎないことが発見されたこと。本件住宅内の他の部屋の浴室については、二号室のスレート煙突について本件浴室とほぼ同様の状態であつたことが発見されたが、その他の部屋のスレート煙突はやはりスレート煙突の周囲に同様の紙が巻かれているもののその出口を封鎖する状態にはなつていなかつたことが確認されたこと。そこで前記係官は、本件事故の四日後、本件浴室及び二号室の浴室内のスレート煙突内の紙詰まりを取り除いたうえ、前回同様の測定をしたところ、右各浴室について殆ど〇に近い数値の一酸化炭素濃度の測定結果を得たこと。以上の事実を認めることができ、これを動かすに足る格別の証拠はない。
右認定の事実に<証拠>を総合すると、本件浴室の換気窓及び入口戸を閉めたままガス風呂バーナーを燃焼させた場合、スレート煙突が殆ど塞がれた状態となつているため排気ガスの煙突による室外への排出が阻害され、そのため入口戸の舞良と称する通風口による外気の吸入作用も阻害される結果、浴室内の酸素濃度が低下するに至り、ひいてはプロパンガスを燃料とするガス風呂バーナーが不完全燃焼することによつて、人体にとつて極めて危険な濃度の一酸化炭素ガスが発生することが認められる。
<証拠>によれば、訴外直及び原告らは、昭和四三年七月に本件住宅に入居して以来八月余の期間本件浴室を使用したにもかかわらず、その間本件事故のような一酸化炭素中毒は発生しなかつたことが認められるが、前掲証拠によれば、これは原告らが入浴前必ず換気窓を開けてガス風呂を沸かし、入浴中追い焚きする時も必ず換気窓を開けていたためであることが認められるのであつて、右事実は本件浴室のスレート煙突の紙詰りによる前記危険性を否定するものではない。
また<証拠>によれば、本件浴室の煙突の高さを基準とした場合、建築基準法施行令の規定に基づく建設省告示第一八二六号により計算した煙突の必要最少径は、三、六八四センチメートルであることが認められる。けれども、本件浴室のスレート煙突の紙詰まり部分には、これに満たない半円形状の直径約二ないし三センチメートルの穴が開いているにすぎなかつたことは、前示認定のとおりであるし、右程度の穴によつては本件浴室内でガス風呂バーナーの不完全燃焼を起こさせないための排気作用がなされないことは、<証拠>によつて認められる長野県警察本部係官の前記第一回測定結果のとおりである。
4 本件事故当時の積雪の影響
本件事故当時、本件浴室のスレート煙突の屋上出口が積雪によつて覆われていたとの事実については、<証拠>によつてもこれを認めるに足らず、他にはこれを認めるべき証拠はない。ところで、本件事故当日午後七時ころになされた長野県警察本部の前記測定によると、四号室浴室においては殆ど〇に近い数値の一酸化炭素濃度を測定したというのであるから、右測定時においては本件住宅屋上の積雪は、スレート煙突の排気作用に何ら影響を与えない状態であつたと推認されるところ、かかる状態のもとにおいても本件浴室では人体に極めて危険な程度の一酸化炭素濃度を測定したというのであるから、本件浴室のスレート煙突の紙詰りは、積雪の影響を無視しても、それ自体人の生命に危険を与えるおそれのある状態であつたといえる。
5 以上に認定した事実を総合すると、訴外直は、本件浴室の換気窓及び入口戸を閉めたままガス風呂バーナーに点火しながら入浴していたため、スレート煙突内の紙詰まりにより排気ガスが浴室内に充満し、浴室内が酸素欠乏状態となつてガス風呂バーナーの不完全燃焼を起し、その結果一酸化炭素が発生し、これによる中毒死に至つたものと推認するのが相当である。そうすると、本件浴室に設置されたスレート煙突には瑕疵があり、その瑕疵と本件事故との間には因果関係があるとするほかはない。
三被告らの責任について
そこで以下右瑕疵について、被告らが責に任ずべきかどうかについて検討する。
1 被告栗田組について
被告栗田組が土木建築を営業目的とする会社であつて、被告県との間に鉄筋コンクリート陸屋根三階建の本件住宅建設工事について請負契約をしたことは、当事者間に争いがない。
<証拠>を総合すれば、被告栗田組代表取締役である訴外栗田勲は、本件住宅建設工事の指揮監督の業務に従事していたこと。同人は、昭和四三年一〇月中旬ころ本件住宅内浴室の壁内部に壁内部を屋上まで貫通しているスレート煙突及びこれを浴室内の銅製煙突と接続する役割を果たす鉄製L型スリーブを取り付ける工事を実施するにあたり、訴外辻出信芳に注文して一八本のL型スリーブを作らせたところ、L型スリーブに接続するスレート煙突の外径が一定していなかつたので、同人が一番太い外径のスレート煙突に合せてL型スリーブを作つたため、両者の内径と外径との間に最大三ミリメートルの差が生じ、スレート煙突の外径がこれを差し込むL型スリーブの内径よりいずれも小さく、そのまま差し込んだ場合その間に隙間が生ずる状況にあつたこと。ところが、右取付工事後にはその周囲に張られている型枠へ、モルタルを流入して固める工程となつていたので、訴外栗田勲は、その際に前記隙間から右モルタルが流入してL型スリーブ内に詰まることを防止するために、右取付工事の事前に工事に従事する被告栗田組人夫に対し、スレート煙突先端的にセメント紙袋を巻きつけて、L型スリーブとの隙間を埋めるよう自ら実演して手本を示したうえ指示したこと。本件浴室のスレート煙突取付工事も、訴外栗田勲の指示に従つた方法で被告栗田組人夫によつてなされたが、その不適切な施工により、前記認定のような紙詰まりの事態が生じたこと。訴外栗田勲は、被告栗田組人夫の右工事施行についてこれに立ち会つて監督することも、工事施行後前記取付個所を点検する措置もとらず、被告栗田工事人夫によりなされた不適切な工事個所をそのままに放置していたこと。以上の各事実を認めることができ、これを左右する証拠はない。
右認定事実によれば、訴外栗田勲がL型スリーブを注文するに当つては、各スレート煙突の外径に合せて製作するよう指示し、このようなセメント袋紙などを巻き付ける工法を避けるべき義務のあることは当然であるから、訴外栗田勲及び被告栗田組の被用者としては、このような工法を採用する以上、スレート煙突内に紙詰まりが生ずる等の危険性があることは予見することが可能であり、かつ予見すべきであつたものと推認するのが当然である。およそ、浴室煙突のように人の生命、健康に害を及ぼす危険性のある設備の工事施行に従事するものには、その業務の性質上自己の工事施行からその被害が発生することのないように万全の配慮をなすべき高度の注意義務があるものというべきところ、本件においては被告栗田組工事人夫においてはこれを怠り漫然不適切な工事施行をなし、訴外栗田勲においては専ら右人夫に任せきりにして監督、点検を怠つたことは前示認定のとおりである。そして、被告県が損害発生防止について注意義務を負うかどうかは、スレート煙突取付工事施工業者に課せられた右注意義務の程度には何ら影響を及ぼすものではない。また、被告栗田組は、右取付工事に際してはセメント紙袋がずり落ちることを避けるため、L型スリーブ外側に折り曲げることを指示し、右工事後は室内銅製煙取付についての下請負人に対しスレート煙突内部の点検を指示したと主張するが、右のような事実が仮に認められたとしても、この程度の措置を以つて損害発生防止のため万全の注意義務を尽くしたものとは到底解することができない。従つて被告栗田組は、代表者である訴外栗田勲及び被用者である人夫の職務の執行についてなされた前記過失により生じた本件事故について、損害を賠償する責任を免れない。
2 被告県について
本件住宅は、公団が自己の資金をもつて事業所の従業員用に建設し、公団から株式会社都筑製作所に分譲されたものであること。被告県は、公団との業務委託契約に基づき、本件住宅建設を施行したが、前記のように被告栗田組に本件住宅建設工事を請負わせたこと。被告県は、公団との業務委託契約に基づき、担当係員をして、本件住宅工事の中間検査(昭和四二年一二月一三日実施)及び竣工検査(昭和四三年四月一九日実施)を行わせ、被告県企業局住宅部施設課工事係の嘱託で長野県住宅供給公社の職員である訴外宮川務を昭和四二年九月に三回、一〇月に四回、一一月に六回、一二月に七回、同四三年一月に三回、二月に六回、三月に三回、四月に一回合計三三回、本件住宅建設工事現場に派遣したこと。以上の事実は当事者間に争いがない。
本件事故が発生するに至つたのは、被告栗田組が被告県から請負つて施行した本件住宅建設工事におけるスレート煙突取付工事について、不適切な工事施行をなしたことによるものであることは、前記認定のとおりであるから、被告栗田組の右工事施行につき被告県が責に任ずべき事由があるといえるのは、被告県が右工事について注文又は指図をしたことに過失があつた場合であるというべきである。そこで、以下右工事施行につき、被告県の注文又は指図につき、過失があつたか否かを判断する。
<証拠>によれば、被告県の公害企業管理者は被告栗田組に対し、公団作成の設計図面及び仕様に基づいて本件工事をなすよう注文したが、右設計図面にはスレート煙突とL型スリーブの取付方法について「鉄線にて各筒留付」と記載されていたこと。被告栗田組の現場代理人として本件煙突取付工事を担当していた訴外栗田勲は、被告県の嘱託で本件建築工事現場に監督員として派遣されていた訴外宮川務に対し鉄線で留付けるのは非常に困難であるとして右工法の変更を申し出たが、訴外人から設計図通り施工するよう指示されたこと。ところが、訴外栗田勲は、右指示に反し、被告県の承認を得ることなく、自己の判断でスレート煙突の先端に紙を巻く前記工法を実施したこと。以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。
以上の認定事実によると、被告県の被用者である訴外宮川務は、被告栗田組の現場代理人に対し、公団作成にかかる設計図書のとおり施工するよう指示したものであるところ、前示のとおり、被告栗田組がL型スリーブをスレート煙突の外径に合せて製作してあれば、このようなセメント袋紙を巻き付ける施工方法をとる必要もなく、ほかに右設計図書の指示する施工方法に特別の難点があつたとの立証もない以上、公団作成の設計図書どおり施工するよう指示をした点につき、被告県の被用者に過失はなかつたものというべきである。
次に被告県の被用者である監督員が、被告栗田組のなした本件浴室のスレート煙突工事について適切な工事がなされたかどうかを確認、点検し、事故を未然に防止する措置を講じなかつたことについて過失があるかどうかを検討する。
<証拠>によれば、公団と被告県の公営企業管理者との間に締結された業務委託契約書には、委託業務の名称は建設工事管理業務とされ、その範囲は契約業務、監督業務、検査業務であつて、右監督業務の範囲は建築及びこれに伴うすべての附帯工事一式を含むこととし、建築、電気、衛生について各一名の監督員を配置し、その監督員が現場に常註すべき標準時間は各監督員につき一週三〇時間とする旨規定されていることが認められる。<証拠>によれば、本件住宅建設工事請負契約書には、被告県の公営企業管理者は、被告栗田組の工事施工について、自己に代つて監督又は指示する監督員を選定することができること。右監督員は、契約書、図面又は仕様書に定められた事項の範囲内において工事施行に立会い、又は必要な監督を行ない、もしくは被告栗田組の現場代理人に対して指示を与えること。被告栗田組が図面に基づいて作成した監督に必要な細部設計図又は原寸図等を検査して承諾を与えること。被告栗田組は、工事の施工が、図面又は仕様書に適合しない場合において、監督員がその改造を請求したときは、これに従わねばならない旨定められていたこと。以上の事実が認められる。右認定の事実に、<証拠>を総合すると、被告県の公営企業管理者が、監督員として訴外宮川務を前記のように本件住宅建設工事現場に派遣していたのは、工事の施行を現場に常駐して逐一直接に事前に指揮監督するためではなく、工事の運営施行が自己の注文した設計図書のとおりに施工されることを監督するためにすぎないことが認められる。従つて、本件の場合右のような立場にある被告県の監督員としては、被告栗田組が本件浴室のスレート煙突取付工事を施行するにあたり、設計図書の指示通りに工事が施工されるかどうかを現場で立会つてこれを監督しなかつたからといつて、ただちにこれらの点に過失があり、被告栗田組の不法行為について責任を負うものとはいえない。
しかしながら、被告県の監督員としては、公団に対する受託業務の執行として、被告栗田組の工事施工が県の注文したとおり完成することを事後的に監理、検査する義務を、少なくとも公団に対する関係においては負うものであるから、かような義務のある者としては、請負人が行つた工事に瑕疵があることを知りながら検査を合格させ、その工事の引渡を受けた場合又は重大な過失によつて右瑕疵のあることを見落して検査を合格させた場合において、その瑕疵により第三者に損害の発生することが予見可能であるときには、請負人に対して右瑕疵の修補を指示しないことが社会生活上許されないものというべく、右指示しなかつた点に過失があるものとして、第三者に対しても右不法行為と相当因果関係にある損害を賠償する責任を負うべきものと解するのが相当である。
そこで、被告県の監督員において、本件事故発生につき予見が可能であつたかどうかにつき判断する。
まず、被告県の監督員が本件煙突の紙詰りを知つていながら、これを放置したことを、認めるに足りる証拠はない。<証拠>を総合すると、昭和四二年一二月一三日に実施された第一回中間検査の際は、本件浴室のスレート煙突とL型スリーブの接合部の両側には型枠が組まれモルタルを流し込んだ状態であつたので、浴室内からL型スリーブ内を検査することは困難であつたが、その後しばらくしてからは、モルタルが固まり型わくが外され、本件浴室内から前記認定のように浴室床面より一、九六メートルの位置にあるL型スリーブの中を検査すれば、スレート煙突内の紙詰りを発見することは、さほど困難ではなかつたこと。そのような状態にあつたと推定できる昭和四三年二月一〇日には、被告県の監督員訴外宮川務及び被告県企業局住宅部住宅課主任中村恵吉により、第二回中間検査が実施されたこと。そのような状態は、浴室内銅製煙突取付を被告栗田組から請負つた訴外辻出信芳が、昭和四三年四月上旬ころ、右煙突を本件浴室に取付けるまで継続していたこと。被告県の監督員訴外宮川務は、昭和四三年一月に三回、二月に六回、三月に三回本件住宅工事現場に監督に行つていること。以上の事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。
右認定事実によれば、被告県の監督員としては、本件浴室内のL型スリーブの穴が外部に露出している間にその穴を検査する機会があつたのであり、その機会にその穴を検査していれば、スレート煙突内の紙詰りを発見することは可能であつたことが認められる。しかしながら、被告県の監督員としては、一般第三者に対する関係において、請負人の工事施行が注文どおり行われないかもしれないあらゆる場合を予測し、それらのすべてについて逐一細部にわたり検査すべき注意義務を負うものとはいえず、特に第三者に対し危害を生ずる可能性の強い工事につき、請負人が注文と異なる工事をする蓋然性の高いと予測される事項について、これを監理し、検査する義務を負うに過ぎないものと解するのが相当である。
ところが、本件ガス風呂の煙突工事自体は、通常第三者に対して危害を生ずる可能性の強い工事とはいえないのみならず、前示のとおり、ガス風呂の煙突工事に当リセメント袋紙を使用することは、通常行われない不適切な施工方法であるから、このような施工方法が行われたことを知らされていなかつた被告県の検査員や監督員としては、通常予測できないような施工方法を請負人が独断で実施し、その結果煙突にセメント袋紙が詰まつているであろうことを予見することは困難であつたものというべきであり、本件浴室内からL型スリーブの内部を検査せず、右紙詰まりを発見しなかつた点に重大な過失があつたものとはいえない。以上により、被告県の監督員が、故意又は重大な過失によつて本件工事上の瑕疵を知り又はこれを見落して竣工検査を合格させたものとはいえず、従つて本件事故発生につき、被告県の監督員において、予見可能性があつた点に証明がないことになる。
以上により、被告県は、本件事故につき、注文者ないし使用者として、損害賠償の責任を負わないものと解するほかはない。
四過失相殺
訴外直が飲酒して本件浴室内であらかじめ水量を追加し、換気窓及び入口戸を閉めきつたまま入浴中追焚きしたことは、前示認定のとおりである。まず飲酒については、約六時間半の間に日本酒約二合半ないし三合を飲んだ状態というのであるから、それ自体としてみれば、入浴に危険な程度とはいえない。しかしガス風呂を利用する場合一酸化炭素中毒の発生を避けるため換気に注意を要することは、社会一般に周知されているところであり、また<証拠>によると、本件浴室に設置されてあるボイラー付属品の煙突には、「点火を確めて浴室の換気に御注意下さい。」との注意書が貼布されていたことが認められ、<証拠>によれば、本件事故当時本件住宅内では、ガス風呂を沸かす時は換気窓を開けていたことが認められるから、本件事故の発生については、訴外直にも水量を追加して追焚きするのに換気窓を閉めて入浴した点に過失が存したというべきである。もつとも寒い日には換気窓を閉めて入浴中ごく短時間追焚きすることは一般に行なつていることであり、これに本件浴室の構造、設備を総合すると右過失は必ずしも重大なものとまではいえず、被告栗田組との過失割合は、おおむね同被告八に対し訴外直二と認めるのが相当である。そして、右のように訴外直に過失があつたときは公平の見地から原告を含む被害者側に存する過失として、訴外直のみならず原告らの被つた損害の賠償額についてもこれを斟酌すべきである。
<以下、省略>
(安田実 山下和明 三木勇次)